会社の価値を決める[ビジョン]は
全社員で議論し続けます

未来は社員自身の手で創る

仕事がしやすくなりました

事務局メンバーは、特に任期が決まっているわけではない。区切りとなる節目で顔ぶれが大幅に入れ代わり、現在は第4期まで来ている。
メンバーは会社が決めるのではなく、あくまでも個人の意思。上司や事務局から勧誘されることはあるが、最終的に手を挙げるかどうかは本人の自由だ。

箭原正道(現・開発四部スペシャリスト)は、第3期の2012年から事務局に参加した。
参加したのは、軽い気持ちからだったと言う。

「事務局から誘われたのですが、[ビジョン]には自発的、自律的に行動しましょうということが書かれているわけで、それならば積極的に参加したほうがいいんだろうなくらいの気持ちでした。
その頃は、すでに事務局の先輩たちが何年も活動してきた後でしたので、活動の形はひと通り出来上がっていました。[ビジョン]そのものも社内にかなり浸透していましたので、週1回の事務局ミーティングを開いて、これからの活動テーマを話し合ったり、議論の進め方を工夫したりしました。
毎年1回、全社員に[ビジョン]の実践状況についてのアンケートを取るのですが、少しでも新しい視点を盛り込もうと質問項目を検討することもやりました。5年経っても、それなりに実践できていない部分は残っていましたから。それらの活動は、現在も続いています」

2012年頃には、[ビジョン]は当たり前のものとして社内にすっかり定着。特に、2007年以降に入社した若い社員たちは、新人教育を経て、最初から[ビジョン]を前提として仕事に臨んでいる。

[ビジョン]導入の前と後で、明らかに社員の働き方が変わったと高倉は感じている。

未経験の新しい分野でも、チャレンジの決断が早いし、背中を押してもらえる。仕事がしやすくなりました

「[ビジョン]の中に書かれている自律行動──上司の指示を待って動くのではなく、自分で考えて、自分で動くという行動が出やすくなりました。開発部署の社員は、自分たちで考えて開発を進めますし、営業部署の社員は、新しいビジネスプランを自分たちで開拓していこうという意識が強くなったと思います。
社内に、チャレンジを許容する空気ができたことで、チャレンジする社員が徐々に増えてきました。実際、社員がチャレンジを重ねてきた結果、社内には多種多様なプロジェクトが走っています。
[ビジョン]導入以降、自分がやりたいと手を挙げれば進められますし、上司がそれを支援する環境になったことも後押ししています」

2002年に入社し、[ビジョン]導入の前も後も経験した箭原は、以前より開発の仕事がしやすくなったと言う。

「積極的で自律的な仕事ぶりが評価されるので、プロジェクトを立ち上げる際には、若い人も含めて積極的に周りから参加者が集まります。プロジェクトリーダー的な立場としては、とてもやりやすいです。
まったく未経験の新しいプロジェクトでも、チャレンジを決めるのが早いですし、思い切りやってこいと背中を押してもらえる。チャレンジする、しないの判断に時間をかけることはありません」

自分の能力で会社を強くする

社員の主体性が高まる傾向は、雨海のいる研究開発部門でも同じだ。

「研究開発は好きなことを勝手にやるのではなくて、自分たちが能力を発揮することで、新しいビジネスを開拓し、会社を動かしていく。自分の目の前のことだけをこなすのではなく、会社全体を活性化していくんだという意識が[ビジョン]から滲み出てきて、とてもいいと思います。
“会社に貢献する”ということから、もう一歩進んだ、自分が主体となって“会社を強くする”という意識ですね。
例えば現在、監視カメラの画像処理系を手掛けていますけど、監視カメラを作っているメーカーは他にもたくさんあるんです。その中で、サンリツの強みを出すためには、どんな機能を強化しなければならないのか、どんな性能を上げていけばいいのか、こんなカメラができればビジネスで勝っていけるよね、といったことまで考えて研究開発を進めるようになってきています」

自分が能力を発揮して新しいビジネスを開拓し、会社を動かしていく。そんな意識が滲み出てます

社員採用や新人教育を担当する由利は、まさに[ビジョン]とともに仕事をしている。

「インターンシップの学生さんや新入社員に、若手社員から話をしてもらう場を設けることがあるのですが、職場の上下関係が厳しくなくて、風通しがいいので上司に相談しやすい雰囲気だとか、チャレンジはしたほうがいいよといった話が、若手社員の口からどんどん出てきます。
年を追うごとにその傾向は強まっていて、若手社員には、かなり[ビジョン]の自立と自律、チャレンジの考え方が定着しているんだなと感じます。
最初は、[ビジョン]にちょっと距離を置いていたようなベテランの社員も、若手と一緒に仕事をするうちに馴染んできたのか、もう距離感はありません。
新入社員については、求人情報に、[ビジョン]に沿った求める人物像を載せていますので、最初から親和性の高い人が入社してくる傾向があります。必ずしも[ビジョン]との親和性が、採用試験の最優先項目ではありませんが、少なくとも正反対の志向の人は入ってきませんね。
中には、本当に社内が[ビジョン]通りに動いているのか、疑う就活生もいますけど(笑)」

そして、予期せず[ビジョン]の成果が表れたのは、コロナ禍への対応だった。緊急事態宣言の発出と同時に、リモート在宅勤務への切り替えをスムーズに行ない、会社のパフォーマンスを落とさずに業務を続けることができた。これは、会社全体を管理統制型ではなく、個々の社員の自律型へとシフトしてきたからこそ可能になったことだった。

「これまでも働き方について議論してきていますから、コロナ対応には役立ったと思いますし、リモートでの在宅勤務についても何回か議論しました。でも、既に在宅勤務体制は問題なく運用できていますので、次のテーマへと議論は移っています」(箭原)

ただ、在宅勤務についての議論を経て、[ビジョン]の文言は一部修正されたという。例えば「一体感」という言葉が想定している前提を、いつでもリアルで社員が集まれる状態から、個々の社員がネットワークで仕事する状態へ変更するといったことが行われた。

[ビジョン]ができて今年で15年目。
その理念が社内に定着したことは大きな成果だが、同時に、15年もの間、社内で議論を続けてきたことの効用も大きいと高倉は言う。

「事務局の活動は大変でしたけど、とても楽しかったんです。お酒を飲んで、言い合ったりしてね。
それまでは、仕事でからまない限り、他の部署の人と話をする機会はあまりありませんでした。それが、[ビジョン]の議論でぶつかり合ったりするうちに、お互いの部署の事情や抱えている問題がよく見えてくる。
対話集会や少人数の討論会、全社アンケートなども、結果的に社内のコミュニケーションを活性化することになりましたし、上司や同僚に相談することの敷居を下げるバックグラウンドにもなったと思います」

いま、[ビジョン]の「事業ビジョン」パート末尾には、世界的な産業構造の変化や、社会的要因によって生まれた新たな事業領域の見取り図が置かれている。ここから、次の時代に向けて、サンリツはどんな価値を生み出すべきなのか、終わりのない議論が続いていく。

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