片目をつぶって任せよう ときには両目をつぶろうか

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経済危機で見つめ直した「自分たちの価値」

意識改革には時間がかかる。なかなか全社には浸透しきれなかったが、世界中を襲った経済危機が、自分たちの強みを見つめ直し、提供している価値を真剣に考える契機となった。

最初のころは、社員によって、意識の変化にずいぶんと差がありました。
社内全体がかなり変わったなと感じたのは、2008年から2009年にかけてのリーマンショックの時でした。

サンリツも創業以来初の大赤字に陥りました。当時のビジネスの主力だった自動車の生産ラインのシステムや半導体製造装置の仕事が大きく落ち込んだのです。
しかし、何年かかるか分からないけど、いずれ回復するのは分かっていましたから、その日に向けて、自分たちの強みを磨き、準備をしていくという姿勢で臨んだんです。

幸いにも危機は乗り越えることができました。社員たちも、ことさら不安がることもなく、落ち着いて仕事に取り組んでいました。自分たちは何を信じて、どういうビジネスを展開すべきなのか、身をもって実感したのではないかと思います。

実際、リーマンショックの後、2015年くらいになると、共通認識が社内に確立してきた感じがあって、例えば営業の会議でも、自分たちの強みは何なのかを出席者全員が分かった上で、議論が進むようになりました。

結局、[ビジョン]を作って目指してきたことは、どういう方向で、どういうビジネスを作っていくべきなのか、全社の共通認識として確信を持てるようにするということです。

その考え方が定着してこそ、社員それぞれが新しいビジネスを作り、推進するようになる。自分たちが競争力を発揮できて、お客さまが付加価値を認めてくださる製品を提供し、適正な対価が得られ、社員自身の収入も増える。そんな自分たちがやるべきビジネスとは何だろうということを、明確に意識するようになりました。

無駄な仕事も、社内ルールも最小限に

社員が自発的に動くためには、意識の持ちように加え、組織の体制が非常に重要になる。本来の仕事に集中でき、チャレンジが許される環境、自分で決められる裁量権、等々。ルールにも独自性が求められた。

[ビジョン]を導入して以来、労働生産性は上がっています。
会社全体で生み出す付加価値、すなわち売上げから仕入れを引いたものは、この10年間、ほぼ右肩上がりで来ています。

一方で、社員の労働時間はかなり減りました。仕事のプロセスをシンプルにすることで効率を上げ、従来はやらなければならなかった雑用をできるだけ省く。でも、付加価値を生み出す本来の仕事時間は減らしません。むしろ増えています。

その結果、社員の時間当たりの生産性も、一貫して右肩上がりになっています。ここ2~3年は特需的な売上要因もあり、特別ボーナスを出すことができたほどです。

社員から見て、頑張って生産性を上げればちゃんと報われる体制を維持していくことが、非常に大切なことだと思います。これまでやってきた改革は間違いなかったと思ってくれているんじゃないでしょうか。

もちろん、社員が自律的に仕事をするには、ルールを明確にしておく必要があります。しかし、そのルールは管理統制型ではありません。社員が何かをやろうとした時に、どこまで自分の判断で動いていいのか、裁量範囲を明確にしてあるんです。

なので、やりたいことについて、即座に自分で意思決定ができます。やっていいのかどうか悩むことはないし、上司にお伺いを立てる必要もありません。ルールでは、やってはいけないことを明確にしておいて、それ以外はやって構わないという形にしてあります。

ですから、社員は自律的にどんどん動いていくことができる。上司や周りの人は心配になるかもしれません。でも、あまり細かなことに口出しするな。心配でも、「片目をつぶれ、場合によっては両目をつぶれ」と。いつもそう言っています。

サンリツでは、早く行動に移すことを非常に重視します。
ベンチャーの世界では、よく“リーンスタートアップ”という言い方をしますが、やってみて初めて学習できることがあります。そして学習したことのフィードバック。これが大切です。頭の中で企画を考えるよりも、とにかく行動に移して、学べるチャンスを逃さないことですね。

ちなみに、サンリツの[ビジョン]の中には、「お客さまの困りごとの解決」というミッションを入れてありますが、これは行動を起こすのに、非常にシンプルで分かりやすい言葉だと思っています。

「困りごと」として持ち込まれる案件ですから、お客さまは費用を払ってでも解決したい。迷うことなく行動を起こせるビジネスチャンスです。行動に直結するようなこうした言葉が、[ビジョン]にはいくつも入れてあります。
そんな言葉が社員の間に定着したことも、行動力の源泉になっていますね。

とにかく、社員が自分の判断でフットワークよく動けるよう、自由度の高い組織運営を心がけています。
同時に、管理を最小限にすることは、リスクを伴いますし、社員を信頼しないとできません。だから、仕事に一途で、サンリツの文化とマッチングがよく、信頼できそうな人材ばかりを採用しているんです(笑)。

「優秀である」と「仕事ができる」は違います

いいエンジニアとして成長するのに、あまり当てにならないのが学生時代の成績だと鈴木はいう。仕事現場での発想力や創意工夫は、成績よりも、本人のマインドに負うところが大きいからだ。いいエンジニアの条件とは。

新しい技術がどんどん登場してきますから、いいエンジニアの条件は、まず好奇心があること。そして何か問題が起きた時に、解決していくことの探求心があることです。
言われたから作業をやるのではなくて、自分が興味あるから、知りたいから、作りたいからやる、といった人たちがいいエンジニアですね。

ただし、優秀であることと、仕事ができることとは全く別です。優秀だけど、自分が作りたいものだけを作るのでは仕事になりません。
企業や社会が必要とするもの、ビジネスとして回せるものを作って、はじめて仕事は成り立ちます。いいエンジニアとは、そのことを理解し、目的を持って行動できる人たちです。

例えば研究開発の仕事では、最初に取り組むジャンルを決めても、ビジネスが分からないと、どんな研究テーマを設定すればいいのか分かりません。
机で悩んでないで、できるだけ早くお客さまと実際のビジネスを開始して、勉強する。そうすると、何が必要なのか目的が見えてくる。そこで初めて、自分の研究テーマが設定でき、仕事としてスタートできるようになります。

いいエンジニアは、自分で育っていく人たちです。だから、育っていける環境をどう作るかですね。社員が活躍し、成長していけるような環境をいかに作るかが、この5年くらいの私の主な仕事になっています。

高い付加価値を日本から発信する

次々と製造拠点が海外に移り、弱体化が指摘される日本の製造業。しかし、本当に強い企業は国内に拠点を置き、高い付加価値を生み出していると鈴木はいう。サンリツもまた、そうした道を目指している。

これからは、今までにも増して高い付加価値を生み出すことが重要です。
現在、日本の製造業は弱体化したと言われています。産業構造がボロボロだと言われる業界さえある。
そんな中で、サンリツの強みを活かし、どんな立ち位置で、どんな戦略をもってビジネスを展開していくのか、いつもそればかりを考えています。

私たちの強みは、ずっと磨き続けてきたコンピュータ技術の開発力、応用力、そして社内の人材力です。日本の製造業が世界の厳しい競争にさらされている今だからこそ、求められるフィールドが広がる一面もあります。
例えば、日本の大手製造業が競争力で後れを取りそうなとき、私たちのコンピュータ技術を活用して巻き返していく、といったことです。

これまでの日本企業は、すべて自前主義でやってきました。しかし最近では、オープンイノベーションをはじめとして、さまざまなコラボレーションが当たり前になっています。
ビジネスパートナーとして、お客さまの内部で一緒に仕事をして、付加価値の向上を技術的にバックアップする。これからは、そんな案件も増えるでしょう。

あるいは、製造委託先など当社に協力してくれているビジネスパートナーの側に立って、危機意識ある企業と協力し合い、品質や生産性、すなわち競争力を高めていくこともできるでしょう。
企業は、高い付加価値を生み出すことで活性化します。日本の製造業全体が、そうなってほしいと思います。

これまでサンリツと取引があったお客さまは、たった1社を除いて、すべてリーマンショックから立ち直りました。
いわゆる“勝ち組”企業ばかりなのですが、皆さん開発と生産の拠点を国内に置いているんですね。生産拠点を海外に移して、価格競争のビジネスをしようという企業はありません。

国内の開発と生産の拠点が緊密に連携して、常に付加価値の高いものを生み出す。そうやって勝ち続けているのです。開発と生産の近さが、付加価値の高いモノ作りには必要なんですね。

サンリツも、お客さまのビジネスパートナーとして、常に付加価値が高いものを提供し、選ばれ続けていきたいと考えています。
日本でビジネスをする限りは、日本に残って開発と製造を続けるお客さまとビジネスをしていくつもりです。

そして、サンリツが高い付加価値を生み出し続け、いつまでも活力ある会社であり続けるには、社員の皆さんの活躍が必要です。サンリツの社員には、もっともっと活躍できる未来がある。そういう能力を持った人たちだと思います。

充実した仕事をして、充実した生活を送る──社員の皆さんには、どん欲に人生を楽しんでほしい、心からそう願っています。

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