片目をつぶって任せよう ときには両目をつぶろうか

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社員1人1人が自由に発想し、自ら動き、開発し、モノを作り、ビジネスを立ち上げていく──それがサンリツオートメイションの企業文化だ。時代とともに管理統制型の企業が増えていく中で、一見、逆行するような企業文化はなぜ生まれたのか、そこにどんな意図が込められているのか。
代表取締役社長の鈴木一哉が語る。

“とんがり”を集めて「強み」にする

サンリツオートメイションは、何よりも技術力でビジネスを展開している会社だ。その中核を担うのは、もちろん“人”。社員を育てていくにあたって、サンリツでは独自の考え方を採用している。

会社は社員が食べていくためのプラットフォームですから、いい形で維持していかなければなりません。でも、もし会社がなくなるようなことがあっても、たくましく生きていける。社員には、そういうスキルを身に付けてほしいと考えています。これは、私自身がそうありたいと思っている姿でもあるんです。

社員を育てるというよりも、社員が育つ環境を提供するのが自分の役割です。学生時代、会社員時代を通じ、やりたいことをやれる環境で私自身が育ててもらいましたから。自由にチャレンジした結果として、人は成長し、活躍できるようになります。

それで数年前から、社内では「成長よりも、まず活躍を」と言ってきました。
人には誰しも得意なところ、苦手なところがありますけど、人を育てるにあたって、日本ではとかく、苦手なところを克服して活躍できるようになってほしいといった方向性になりがちです。

でも、苦手なところに指導が集中することで、つぶれてしまう人はたくさんいる。サンリツの場合ですと、例えば、エンジニアの中には事務処理が苦手な人がいますけど、そこばかり指導されると、自信をなくしたり、メンタル的に追い込まれたりしてしまいます。

それを避けるには、まず得意なところで活躍してもらい、苦手なところは周りがフォローすればいいんです。そうすれば本人の個性を活かした活躍ができるし、自信が持てます。
苦手を強いてもパフォーマンスは上がりませんし、社員同士がお互いの得意なところでカバーし合う分業体制を作れば済むことです。

“成長”と“活躍”の順序を入れ替えることで、メンタルヘルス的にもいいですし、なにより個性的な社員が育つ。いま、全社でこのことに取り組んでいます。

ときには、本人が気付いていない“得意”を周りが発見して、向いていそうな仕事を振ってみるということもします。同じ開発の仕事でも、緻密な作業が求められる製品開発と、ざっくりと俯瞰的に構想をまとめていく研究開発とでは、求められる資質が違いますから。

活躍できると、人は大きく変わります。活躍できたことで自分の居場所が見つかるし、自分のキャリアプランも見えてくる。それが大切なんですね。

ベテラン社員の目から見れば、最初は、甘やかしているように映ることもありました。これは甘やかしているのではなくて、若手を育てるには、まずは“得意”を伸ばすのがより良い方法と考えているからである。そう理解されるまで、少し時間がかかりました。

そもそも、得意なところを伸ばすからこそ競争力が生まれます。苦手なところはいくら引き上げても、せいぜい平均値にしかなりません。平均値をいくら集めても、競争力は生まれない。
社員の得意なところ、“とんがり”を集めて、重ねていくことで、大企業にも勝てる競争力を持つことができるんです。

社員の手でビジネスを作り、動かす会社へ

鈴木は、40代半ばまで、大手企業でエンジニアとして働いていた。そこでいくつものプロジェクトをマネジメントした経験が、現在、役に立っているという。

2005年、45歳になる直前にサンリツに移りました。
サンリツは先代社長であった父が創業した会社ですけど、会社を継いでほしいとは言われてきませんでしたし、私にもそのつもりはありませんでした。

その父が70歳くらいの時に、病気とケガがいくつか重なり、健康にとても不安を覚えたんですね。もし、自分に万が一のことがあれば、会社は立ち行かなくなるし、社員は路頭に迷ってしまう。だから後を継いでくれないかと言い出しました。家業として責任があるという感覚だったんでしょうね。

そう言われても、私が会社を経営していけるかどうか分かりませんから、1年間くらい月1回、週末にサンリツに通って、当時の経営幹部と話をしました。その結果、それまでやってきた研究開発から事業化までのプロジェクトの経験が、研究開発型のサンリツのビジネスに応用できると分かりました。

また、関連するグループ企業を巻き込んで新規事業を立上げた経験も役立つことが分かりました。主要メンバーが皆、自律的に自分の役割を果たしていたのでスピード感があり、困難なテーマにチャレンジする活気もあって、楽しかったですね。
これらの経験が、サンリツをもっと良い会社にしていくための経営に活かせると思い、移ってくる決断をしました。

社長に就任した鈴木が、まず手掛けたのは、社員1人1人の意識を変え、働き方を変えてもらうことだった。家業ではなく、社員自身の手で動かしていく企業になる。それが目指すべき新しいサンリツの姿だった。

それまでのサンリツは、経営トップが強力なリーダーシップを発揮している会社でした。どんな事業をやるのかはトップが決め、社員はそのビジネスを手伝っているような会社だったんです。ですから自立した社員は育っていませんでしたし、自立志向が強い社員が辞めたりもしていました。

そんな体制ですから、トップにもしものことがあれば経営が立ち行かなくなるといった不安も出てきます。そうならないためには、社員が自律的に仕事をする会社に変えることが、いちばん大切だと思いました。
私自身も、そういう会社じゃないと面白いと思いませんし、自分が社員の立場だったら好きな仕事ができない会社には魅力を感じませんから。

それで、私が入るまでの三十数年間に、サンリツが培ってきた理念、事業を進める上での価値観、仕事の現場における行動規範といったものを整理して、残すべきものは残し、変えるべきものは変えていこうと考えました。

サンリツはこうあるべきだと長年言われてきたこと、社員みんなが共感し、賛同できるもの──すなわち、サンリツのアイデンティティーであり、サンリツが社会で存続していくことの価値です。それは全社で実践すべき「企業ビジョン」として、変えずに残していく。

一方で、それまでは、自分たちが手掛けている事業が、きちんと整理されていませんでした。サンリツは、どういう強みを持っていて、どんなビジネスを展開しているのか。客観的に整理できていなくて、成り行きでビジネスを手掛けているような面がありました。

そこをきちんと整理し、全社で自分たちの強みやビジネスモデルを認識し、理解した上で事業を展開していこうと「事業ビジョン」をまとめました。これは時代の変化とともに、社員自身の手で変えていく部分ですね。

「企業ビジョン」と「事業ビジョン」とを、ひとまとめにした[ビジョン]を明文化し、全社で共有することで、自立した社員が、自律的に仕事をするための指標にしてもらおうと思ったんです。

トップがやりたいビジネスに社員がついていくのではなく、トップは方向性やビジョンだけを示し、具体的なビジネスは、それぞれの社員が自分たちで企画し、立ち上げ、運用していく体制に変えていこうということです。

とは言え、今まで通りに仕事ができればよい──そう考えている人は、なかなか意識を変えられませんでした。黙っていてもお客さまから持ち込まれる仕事が一定量はあって、危機感を持ちづらかったのかもしれません。

でも、自分で企画して何かを作れる。しかも、チャレンジして失敗しても許されるという環境ができたことで、能力のある社員たちは、どんどん伸びていきました。

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