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FAの仕事を楽しむ

1週間、電気が来ない!

工場は街から離れた場所に建設されますから、周りには本当に何もない 工場は街から離れた場所に建設されますから、周りには本当に何もない

もう1つ、FAチームに特有の苦労は、海外でのシステム構築だ。顧客企業の海外工場建設に伴い、サンリツにも海外でのシステム構築の依頼が来る。

海外の現場では、国内とは違うハードルが数多くあるが、それもまた楽しいとITエンジニアリング部・新応用システムグループリーダーでプロジェクトマネージャーの尾関 敦は言う。

「最初の海外経験は、中国での自動車工場立ち上げでした。工場は街から離れた場所に建設されますから、周りには何もない。中国語もほとんど話せないので、コーラ1本手に入れるにもひと苦労です。でも、1日の仕事が終わるとホテルまで送ってもらい、あとは1人で夕食を食べ歩いたりして、けっこう楽しくやっていました。おかげで、中国語もだいぶ上達しましたね」

生産ラインは、基本的に日本の工場と同じ機器が設置される。世界共通にすることで、管理やアクシデント対応が一元化できる上、日本と同じ品質、同じ生産効率が期待できるからだ。

したがって、それを動かす生産指示システムも基本的に国内のものと同じ。サンリツのエンジニアが現地で行う仕事は、システムの動作確認やパラメータ調整、生産機械との接続の確認、そして現地スタッフのシステム教育が主なものになる。

そこで、まず直面するのは、言葉の壁と仕事文化の違いだ。

「仕事の現場には通訳が付きますが、コンピュータスキルのある人ではありませんので、正確に伝えることに神経を使います。コンピュータの状態を表す“ステータス”という言葉を、現地語で“地位”と通訳したりね。間に英語を介して現地語に通訳することも多いので、細かなニュアンスはなかなか伝わりません」(橘)

現地スタッフの仕事文化に驚かされることもある。

「中国工場でシステム教育をしていた時ですが、毎日、コンピュータの動作ログが消えるという“事件”が起きました。操作の一環として動作ログの消し方を教えたスタッフが、本物のシステムで毎日練習していたんですね。向学心があって熱心なスタッフが多いのですが、それが予想もしない形で出ることがあるんです」(尾関)

カナダの工場立ち上げでは、また違う苦労があった。

「私たちコンピュータ屋は、電気が通らないと仕事にならないのですが、電源を入れてもらう約束の日に行くと、担当者が休みで電気が来ない。仕方なく次の日に出直すと、電源盤をロックしたまま担当者が帰ってしまって電源が入れられない。さらに次の日は足場が外されていて高い場所にある電源盤が操作できないといった調子で、毎日、違う理由で電気が来ない。
結局、作業ができるようになるまで土日を挟んで1週間くらいかかっちゃいました(笑)。役割分担がきっちり決められていて、人の仕事には手を出さない文化なんです。現場に行ってみると、電源が入らないどころか、配線工事すら終わっておらず、仕事にならずに帰ってきたこともあります」(冨ケ原)

FAのノウハウを標準化する

働く人の文化だけでなく、国が違えば労働の規制も違う。カナダ工場の立ち上げでは、規制の厳格さにも驚かされたという。

「システムの操作を従業員に教えるという“教育目的”で入国したのですが、そうすると作業は一切許されません。ちょっと基板や配線をいじろうとしてドライバーを握っていると、プロレスラーのような風貌の警備員が飛んで来て、What are you doing?(何をしてる?)と声掛けられるんです。ドライバー1本でもダメなんですね。
そもそも、工具類は入国時のイミグレーションで持ち込めずに没収されます。でも、文化が違うだけで、皆さん、人柄がいいですよ。住むならカナダだなと思いますもの」(尾関)

これまでFAチームが、自動車工場の立ち上げに訪れた国は、中国、カナダ、メキシコ、タイ、マレーシア、ブラジル、アルゼンチン、ロシアなど。
尾関は、たまたまタイミング悪く(!?)、タイの政情不安や、中国の反日デモの場に行き合わせたことがある。

「タイのバンコクでは、反政府派が街角を占拠して大規模な集会を開いていました。でも、通りかかってみると、日本で報道されていたような緊迫感はない。ステージや屋台が設置されていて、屋外コンサートかお祭りのような雰囲気なんです。拍子抜けしました。
中国の反日デモの時は、3日間ホテルから一歩も出ずに、緊張して過ごしました。ホテルのロビーで食事をしていても、周囲の刺すような視線を感じました。しかし、デモが終わると、何事もなかったかのように、地元の皆さんはケロリとしているんです。普通の海外旅行では絶対にできない稀有な体験ですね」

コロナ禍がきっかけで、海外の現場での仕事もリモート化を進めています コロナ禍がきっかけで、海外の現場での仕事もリモート化を進めています

海外工場の立ち上げでは、システムの最初の起動確認、生産ラインの各設備との接続、実際の生産開始といったフェーズに合わせて、1週間ずつ3回くらいの出張を繰り返す。出張の仕上げは、実際にラインが稼働し、無事に製品が生産され始める場に立ち会うことだ。

「工場の稼働開始と同時に、どんどん製品が流れ出すような劇的な場面を想像するかもしれませんが、そんな感じではありません。最初は生産ラインの機能チェックや製造の練習のために動かしますから、ラインの動きは非常にゆっくりです。流れている製品を戻して、やり直したりもする。それこそ、製品の完成まで本来は1分の工程が1日がかりです。立ち会っていると、結構じれったいですよ(笑)」(橘)

世界のどこにでも駆け付けて、工場立ち上げのサポートをするというFAチームの仕事。しかし、その内容は時代に合わせて変化しつつある。日本からリモートでやれる範囲を増やそうという試みは以前から行われていたが、コロナ禍で出張ができなくなり、リモート化の流れが加速したと橘は言う。

「例えば、私たちが現地に行ってやっていた仕事を置き換えられるようなプログラムを開発するとか、教育のためのマニュアルを整備するといったことを進めています。かつて私たちが教育した現地のスタッフが成長して、今度は教育係を務められるような状況も出来てきましたので、新しいアプローチが可能になると思います」

同時に、蓄積してきたFAのノウハウを活用する準備も進めている。最近、尾関が取り組んでいる仕事は“標準化”だ。

「これまで培ってきた生産指示システムのノウハウを標準化して、さまざまな製造現場で使えるようにします。まず、標準化したシステムを入れて、不具合があればそこを改善していく。自工程完結型のシステムにして、不具合はその場で分かるようにします」

製造業の現場は、旧い設備も使いこなしながら、日進月歩の勢いで進化させ続けなければならない。そのために、どんな知恵を絞るのか。ハードルは、ますます高くなっていく。

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